2026. 07. 01 (水)

自動運転時代の事故責任と保険

天知研究所の研究員の写真
天知研究所の研究員 [写真=天知研究所]
自動運転車の事故責任は誰にあるのか。従来の自動車事故であれば、運転者の過失の有無を判断し、自動車保険を通じて被害を補償することが比較的明確である。しかし、自動運転車の時代には、事故責任の主体が運転者一人に限定されなくなる。車両の制御権が自動運転システム(ADS)に移行することで、車両の所有者だけでなく、製造者、ソフトウェア開発者、車両運営者、通信事業者、道路インフラ管理者など、さまざまな主体が事故の原因提供者となり得る。自動運転車の商用化は、単に運転方法を変えるだけでなく、事故責任の体系と保険制度の変化を求めている。

グローバルな自動運転市場は急速に成長している。アメリカでは、ウェイモのロボタクシーサービスやテスラの完全自動運転(FSD)の高度化を通じて、大規模な運行データを蓄積している。一方、中国は政府主導のインフラ整備と規制緩和を背景に、自動運転タクシーサービスを拡大している。韓国も2027年にレベル4自動運転車の商用化を目指し、制度とインフラの整備を進めており、全国的な試験運行地区の運営や自動運転実証都市の創出などを推進している。

自動運転車の商用化に対応するためには、まず事故責任体系についての議論が必要である。特に、被害補償がほとんど自動車保険を通じて行われることから、保険制度の整備が先行する必要がある。そのためには、まず自動運転技術の段階を理解する必要がある。現在商用化されている先進運転支援システム(ADAS)はレベル1〜2であり、運転の主体は依然として人間である。一方、レベル3からは自動運転システムが運転を担当し、レベル4以上では特定の条件(ODD)内で運転者の介入なしに完全自動運転が可能となる。結局、レベル4以上では車両の制御権が自動運転システムにあるため、事故が発生した際に誰に責任を問うかが重要な争点となる。

主要国はこれに対応して新たな責任体系を整備している。イギリス、ドイツ、日本などは、製造者や運営事業者の自動運転運行時の義務や責任を規定し、関連制度を整備している。主要国の動きを見ると、自動運転時代には責任の中心軸が個人運転者からシステム運営主体に移行しているように見える。ただし、これらの議論はロボタクシーや自動運転シャトルなどの企業単位の運行を中心に行われているため、今後、個人が所有する自動運転車の責任体系については追加的な検討が必要である。

保険産業の立場からは、責任主体の変化と同様に事故リスクの変化も重要である。一般的に自動運転技術は事故頻度を減少させると期待されている。実際、ウェイモ車両の保険請求データを分析した研究でも、対人・対物事故の請求件数が一般車両よりも大幅に低いことが示されている。しかし、事故頻度が減少したからといって保険リスクが減るわけではない。むしろ、事故1件あたりの損害規模は増加する可能性が高い。自動運転車に搭載されたライダー、レーダー、カメラなどの先進機器は修理費を高くする可能性があり、事故原因の究明のためのデータ分析や責任争いの過程で調査費用や訴訟費用も増加する可能性がある。つまり、事故頻度は減少しても、事故1件あたりの損害規模は増加する方向でリスク構造が変わる可能性が高い。

この過程で車両データの重要性はますます高まる。自動運転車事故の原因を究明するためには、車両の走行記録やシステムの動作情報を確認できる必要がある。データへのアクセスが制限されると、責任判断が困難になり、調査・訴訟費用が増加する可能性がある。したがって、事故関連データを標準化し、保険会社などの利害関係者が合理的に活用できる制度的基盤を整備することが重要である。

自動運転車の商用化の成功は、技術の進展だけでは決まらない。事故が発生した際に誰が責任を負い、どのように被害者を保護するのかについての社会的合意が必要である。そのためには、自動運転段階ごとの責任体系の確立、データアクセス権の法制化、記録の標準化などが求められる。自動運転時代の保険は、単なる事故補償を超え、新技術に対する社会的信頼を提供する安全装置となるべきである。自動運転車の商用化を前に、事故責任と被害補償体系についてのより具体的な議論が必要な時期である。



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