29日夜、ソウル梨泰院(イテウォン)で発生した大型圧死惨事は、韓国では類例のない事故だ。31日午前現在、154人が死亡し、149人が負傷したと集計された。死者数はさらに増える可能性もある。これまで数百人が死亡したり怪我をする事故はいくつもあった。最近の順で、304人が死亡したセウォル号沈没事故(2014年4月18日)、192人が死亡した大邱地下鉄火災事故(2003年2月18日)、502人が死亡した三豊(サムプン)デパート崩壊事故(1995年6月29日)、292人が死亡した西海フェリー号沈没事故(1993年10月10日)などが代表的だ。
これらの事故は具体的な事故原因や発生過程は異なっていたが、一つ共通点があった。人の過ちで発生した人材という点だ。関係者が安全規則を守らなかったり、安全管理を疎かにして発生した。事故原因が比較的明確で、事故責任者を究明することも難しくなかった。
韓国で大規模な圧死事故は初めて
しかし梨泰院事故は事故原因や発生過程が全く異なる。現在まで推定される原因は大規模な人波による圧死だ。狭い路地に10万人近い人波が押し寄せた状態で誰かが倒れると、後ろから押し寄せてきた人たちがこれに引っかかってドミノのようにその上に倒れた。倒れた人たちは人波に敷かれて心停止で亡くなった。だれの過ちとはいえない。事故の誘発者が誰だと特定もできない。一種の自然災害に近いため、典型的な人災だった過去の大型事故とは異なる。
大規模な圧死事故は外国では何度もあった。人波が集まる各種宗教行事で発生した場合が多かった。1990年7月、イスラム教の聖地であるサウジアラビアのメッカ付近で聖地巡礼客1426人が圧死した事故が代表的だ。メッカに向かう歩行用トンネルに人が押し寄せたことで起きた。
私たちはこのようなニュースを聞くたびに、大規模な圧死事故は狭い地域に巡礼客が数万人ずつ集まる外国の遠い国で発生するものと考えた。ところが、そのような圧死事故が韓国でも起きたのだ。圧死事故が韓国にも例外ではないということだ。
今回、梨泰院にはハロウィンフェスティバルを迎え、膨大な人が集まるものと予想されていた。コロナ禍で3年ぶりに再開された祭りだったためだ。商店街はさまざまな祭りを準備していた。外国の事例からも分かるように、多くの人が集まると、いつでも圧死事故が起きかねない。しかし、韓国社会には圧死事故の危険性に対する認識がなかった。大勢の人が集まるからといって何か起こるわけではないというのが私たちの一般的な考えだった。だから圧死事故に備えた安全指針も予防指針や教育もなかったわけだ。
人波による圧死事故の危険性を新たに認識すべき
梨泰院事故は、大規模な圧死事故発生の危険性に対する私たちの認識を変えなければならない。数万人の人出が狭い地域に一度に集中すれば、いつでも大規模な圧死事故が起きかねないという事実を悟らせてくれる。このような事故を防ぐためには、人出事故に対する安全不感症から捨てなければならない。ソウルには梨泰院の他にも弘大入口や江南駅交差点のように人出が特に多く集まる地域がある。地方にもこんなところがあるだろう。普段から人が殺到したり、特定行事を控えて人々が集中すると予想される時は、人出管理をどうすればいいのか考えなければならない。人波が短時間に一つの地域にあまりにも多く集中しないかリアルタイムモニタリングし、あまりにも多く集まる時は人波を統制するシステムを構築する必要がある。人波管理対策が急がれる。そのためには、政府は梨泰院事故が発生した原因と過程を科学的に徹底的に調査することから始めなければならない。
梨泰院の転倒事故で死亡したり怪我をした人はほとんど20~30代だという。ハロウィンフェスティバルは、年配の世代は何の祭りかも知らない珍しいイベントだ。しかし若者にはそうではない。 若者にとっては大きな祭りとなって久しい。外国文化を韓国文化のように楽しむことはますます多くなるだろう。若者たちはその文化を楽しむために一ヵ所に集まることが多くなり、このような傾向に歩調を合わせて中・高校生に大規模な人波による圧死事故の危険性と安全規則を教える必要もある。一瞬にしてあまりにも多くの人が集まると危険なことから教えなければならない。このようなところにはできるだけ行かないか、あまりにも多くの人が集まると、急いで抜け出さなければならないという事故防止の意識も高めなければならない。
梨泰院事故の発生直後、外国の首脳らも韓国国民に慰労の意を相次いで表明している。ジョー・バイデン米大統領は声明を出し「ソウルで愛する人を失った家族に深い慰労を送る」とし「私たちは韓国人と共に悲しみ、負傷者が速やかに回復することを願う」と伝えた。「米国はこの悲劇的な時期に韓国と共にする」と付け加えた。英国のリシ・スナク首相は「非常に苦しい時間に直面した韓国の国民みんなと現在の惨事に対応する人々と共にしたい」と明らかにした。エマニュエル・マクロン フランス大統領は「梨泰院で起きた悲劇に韓国国民とソウル住民に心からの哀悼を送る」とし「フランスは皆さんのそばにいる」とメッセージを送った。
人災ではなく自然災害・・・·政略的に悪用してはいけない
外国首脳の慰労声明は人道主義に基づいた人間愛の表現だ。しかし、私たちの立場では恥ずかしいことでもある。韓国は世界10位圏の経済大国だ。半導体をはじめとする電子技術、自動車産業はもちろん、サッカー、映画、K-POPなどスポーツと文化部門でも世界的な先導国になって久しい。そんな国で後進国型圧死事故が起き、数百人が死亡または負傷したという事実は恥ずかしいことに違いない。韓国の国際的な威信を落とすことだ。
梨泰院の事故を政略的に悪用しようとする試みも警戒しなければならない。先に述べたように、今回の事故は人災とは言い難い。むしろ自然災害に近いため、誰かに責任を問うことは難しい。にもかかわらず、政府にすべての責任を転嫁し、政治攻勢の好材料にしようとする試みもあるだろう。大したことではない小さなミスや失策でも出れば、針小棒大に国政混乱や政府無能と攻撃し、ひいては嘘と操作で扇動しようとする勢力が出てくる可能性がある。政争で目先の利益を得ようとする試みと勢力を拒否し審判できる国民の行動様式が切実な時だ。
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