[イ・ワンフィのコラム] 米国も放棄した脱中国政策

[写真・執筆=イ・ワンフィ亜洲(アジュ)大学校政治外交学科教授]


世界で脱中国を最も望んでいる国はどこなのだろうか。おそらく中国との貿易戦争を5年間遂行している米国だろう。トランプ元大統領は、中国が不公正な方法を通じて莫大な貿易黒字を記録していると批判し、中国産の輸入品に最大25%の報復関税を賦課して輸出統制や輸入制限、投資禁止など多様な制裁を導入した。米国の攻撃に苦しんだ中国は、2020年1月の2年間、2000億ドル規模の米国産製品を購入し、金融市場を開放するという第1段階貿易合意を受け入れた。バイデン大統領も先端製品の対中輸出を制限すると同時に、グローバルサプライチェーンから中国を孤立させるためのインド太平洋経済枠組み(IPEF)を5月に発足させた。

このような全方位的な圧迫の結果は、成功より失敗に近い。中国との貿易赤字は2019年に少し減少しただけで、2020年以降再び増加した。2021年、前年比米国の対中輸出は32.7%、中国の対米輸出は27.5%がそれぞれ増加した。前年比25.1%増の3966億ドルの対中貿易赤字は、この5年間の貿易戦争を無駄にしてしまった。中国は第1段階貿易合意を遵守しなかった。2020年1月~2021年12月の統計によると、中国は目標値の3分の2(米国輸出基準60%、中国輸入基準62%)程度のみ輸入している。

さらに深刻な問題は、バイデン政権が第1段階貿易合意を履行していない中国を報復できずにいることにある。正常な状況なら、米国は中国に約束を守らない代価を要求し、中国が米国の要求を受け入れない場合、追加制裁を通じて中国を圧迫すべきだった。しかし、バイデン政権は中国を追い詰めておらず、中国市場の追加開放に向けた第2段階貿易合意には言及すらしていない。むしろ、バイデン政権は50年ぶりの記録的なインフレを抑えるためにトランプ政権が賦課した報復関税の撤廃を考慮している。この措置が実施されれば、貿易戦争の主導権は米国ではなく中国が握ることになる。

米国の脱中国政策はなぜ失敗したのか。最も根本的な要因は、この政策が経済的論理ではなく、 安全保障の考慮に左右されたことにある。米国の対中強硬派は、中国の不公正貿易が対中貿易赤字の最大の原因だと主張した。もちろん中国が産業政策を通じて自国企業に補助金を支給し市場接近を制限したのは事実だ。しかし、この事実をよく知っている多くの米国の多国籍企業が中国に生産施設を移転した。米国で自主的に生産するより中国企業に生産を委託する方がより多くの付加価値と収益を創出したためだ。すなわち、中国に進出した米国企業の立場では、脱中国は経済的に持続可能でない代案に過ぎなかった。

中国が世界経済成長の牽引車であると同時に世界最大の消費市場であるという事実は、米国企業が中国を離れるのが難しいもう一つの理由だ。経済規模では米国の70%前後に過ぎないが、世界経済成長には中国が米国より大きく寄与している。消費市場の規模も中国が米国にほぼ近接している。主力産業である自動車の場合、2021年に世界1位の中国は2608万台を生産したのに対し、2位の米国は915万台にとどまった。電気自動車(EV)での米中格差はさらに大きい。2021年、全世界660万台の販売台数のうち、中国は半分以上の340万台だったが、米国は50万台に過ぎなかった。驚くべきことは、今年上半期に中国の比亜迪(BYD)が米国のテスラを抜いて世界最大のEV企業になったということだ。この二つの企業に追いつくため、ドイツのBMWは6月24日、瀋陽に過去最大規模のEV工場を開設した。

グローバルサプライチェーンも米国より中国に有利に再編された。1990年代末まで東アジア供給網の核心国家は日本だった。2000年代初頭、「世界の工場」として浮上した中国は、2010年代半ば日本を抜いてサプライチェーンの中心を占めた。中国の産業構造も労働集約的産業から資本集約的および技術集約的産業へと急速に変化した。中国は第4次産業革命に欠かせない人工知能(AI)、第5世代移動通信(5G)、フィンテック、クラウドなどで米国と対等な水準に跳躍した。その結果、サプライチェーンにおける中国の優位は伝統産業だけでなく先端産業へと拡大した。インドとベトナムが中国の代案として議論されているものの、これらの国々が短期間に中国をサプライチェーンの中心から追い出す能力を保有できなかった。

米国の友好国である韓国、日本、台湾の対中依存が弱まっていないという事実も見逃してはならない。最近まで安保的な対立が経済に大きな影響を及ぼしていない。中国の相次ぐ武力デモに両岸関係の緊張が高まったが、台湾の対中輸出は2021年に過去最高記録を更新した。2013~19年まで韓国が占めていた中国の最大輸入国の地位を2020~21年には台湾が占めた。交渉妥結までに数年以上かかるため、IPEFを通じた対中依存度縮小効果が可視化されるまでにかなりの時間がかかるだろう。

この5年間、米国の脱中国の試みは成果よりは限界を示すことが多かった。外交的な次元でも、米国は中国との対立を緩和しようとする意図を示している。6月以降、米国はジャネット・イエレン財務長官と中国の劉鶴副首相のテレビ会議を含め、5回にわたって中国と高官級会談を行った。バイデン大統領と習近平主席の首脳会談が実現すれば、少なくとも経済分野ではある程度の妥協案が出ると期待される。

米国の対中政策が転換されれば、韓国政府も脱中国政策を再考しなければならない。米国が中国と通商協力を強化しようとしているだえに、韓国が中国と背を向ける必要はない。韓米経済協力とIPEFは対中貿易の代案として十分ではない。韓国企業の脱中国は、中国市場で激しく競争する日本企業と台湾企業に良いだけである。

対中貿易赤字にも注意を払わなければならない。今年4月から6月までの韓国の貿易収支は赤字だった。特に憂慮されるのは、韓国の貿易黒字の80%以上を提供した対中貿易が1994年8月以後初めて今年5月に赤字に反転したということだ。この傾向が続く場合、海外投資家の離脱で外国為替市場が不安定になり、為替レートが切り下げられる可能性が高い。

インフレ急騰と成長率下落で経済が厳しくなる状況を勘案し、高位政策決定者が中国を不必要に刺激する発言や行為は最大限自制しなければならない。中国の報復に米国よりはるかに脆弱なため、韓国が米国と同じ水準と方法で中国を圧迫することはできない。下手をすれば韓国が脱中国をするのではなく、脱中国されることもありうる。
 
 
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