2026. 02. 17 (火)

[社説|基本・原則・常識] アジアの快挙、若者の奮起を

  • 三浦・木原の金メダルが問いかけるもの

オリンピックは記録を競う舞台である以前に、精神の祭典である。公正と正義、人類の融和という理念はいまもその中心にある。だが、冬季種目や競泳、陸上といった伝統的な主要競技において、長らく西側諸国が優位を保ってきたのも事実だ。資本、インフラ、そして歴史的蓄積の差が生み出した現実である。
 

そうした文脈の中で、2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪のフィギュアスケート・ペアで、日本の三浦璃来・木原龍一組がフリーで完成度を極限まで高め、逆転優勝を果たしたことは、単なる金メダル以上の象徴性を帯びる。不毛の地と見なされてきた種目でアジアが頂点に立った事実は、機会の地形が変わりつつあることを示す兆しではないか。
 

両選手の勝利は、技術の緻密さと試合運びの成熟が結びついた結果だった。ショートプログラムでの失点を踏まえ、フリーで集中力を引き上げて逆転した展開は、勝負の本質を物語る。結果は一瞬で決まるものではない。失敗の後にどう向き合うか、重圧の中でどう判断するか、最後まで集中を保てるかが流れを変える。その姿は、アジアのスポーツがもはや周縁ではないことを雄弁に示した。
 

冬季競技は地理や気候条件、長期投資の蓄積を持つ国が有利だとの見方が強かった。夏季競技でも、陸上や競泳は長く西側の牙城とされてきた。しかし、科学的トレーニングやデータに基づく指導が広がり、格差を固定してきた壁は徐々に揺らいでいる。今回の日本ペアの金メダルは、その扉をさらに押し広げた一例といえる。体力、技術、組織力においてアジアが世界と肩を並べ得ることを示した。
 

重要なのは、ここで歩みを止めないことである。アジアの若者が夏冬を問わず、サッカーやバスケットボールはもとより、陸上、競泳、体操、氷上競技に至るまで堂々と競うには、国家と社会による長期戦略が欠かせない。スポーツは一過性のイベントではなく、世代を超えた投資である。学校体育の再生、地域クラブの裾野拡大、科学的訓練体制の定着、公正な選考制度――そうした基盤づくりが問われている。メダルは結果にすぎない。まずは過程の誠実さがあってこそである。
 

Riku Miura and partner Ryuichi Kihara of Team Japan compete during Pair Skating - Free Skating on day ten of the Milano Cortina 2026 Winter Olympic games at Milano Ice Skating Arena on February 16 2026 in Milan Italy Getty Images
Riku Miura and partner Ryuichi Kihara of Team Japan compete during Pair Skating - Free Skating on day ten of the Milano Cortina 2026 Winter Olympic games at Milano Ice Skating Arena on February 16, 2026 in Milan, Italy. (Getty Images)


五輪の理念は勝利のみを称揚するものではない。公正な規則、対戦相手への敬意、敗北を受け入れる姿勢も含まれる。アジアが真のスポーツ強国へと歩むには、技術や体力に加え、こうした価値の内面化が不可欠だろう。反則や近道、短期的成果への過度な執着は、信頼を損なう。スポーツは国家像を映す鏡でもある。公正と正義の上に築かれた成果だけが長く残る。
 

スポーツは若者の心身を同時に鍛える。勝負の重圧に耐える忍耐、仲間のために尽くす献身、敗北から学ぶ謙虚さは、社会全体の力へとつながる。産業や科学、文化が競い合う時代にあっても、スポーツは人間の基礎を問い続ける。体力、節度、挑戦、連帯はあらゆる分野に通じる。次世代の競争力を育てるなら、体育を周縁ではなく中心に据える発想が求められる。
 

日本のペア金メダルは一国の栄光であると同時に、アジア全体の可能性でもある。韓国、中国、東南アジア、南アジアの若者がその舞台を見て志を抱くなら、それ自体が成果である。国境は異なっても、アジアという共有の舞台でともに高め合うことはできるはずだ。競争は激しくとも、敬意を失わない姿勢。勝敗を超えて学ぶ文化。その土壌が育つとき、アジアのスポーツ地図はさらに広がるだろう。
 

機会は備えある者に訪れる。学校の校庭で、地域の体育館で、氷上やトラックで流す汗が未来を形づくる。国家と社会は、その努力を支える基盤を整えなければならない。長期投資、公正な制度、科学的支援が結びつくとき、アジアの快挙は一過性の話題ではなく、時代の潮流となる。
 

三浦・木原の逆転優勝は終着点ではなく出発点である。アジアがもはや周辺ではないことを示した出来事だ。残された課題は奮起である。公正と正義を守りつつ世界と交わる道を歩めるかどうか。そこにアジアの若者の未来がかかっている。
 

スポーツは力である。その力を育てる営みに、私たちはより真剣でありたい。


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