[チョ・スヨンのコラム] コロナ禍が巻き起こしたインフレ恐怖、ワクチンと治療法は?

[写真・執筆=チョ・スヨン公正な金融投資研究所長]


世界的に新型コロナウイルス(コロナ19)ワクチン接種率が高まり、社会的距離の確保や社会と国家封鎖の経済ショックは減少している。もちろん、この回復は世界GDP上位国を中心に進められているため、「世界的」という表現は語弊があるかも知れない。コロナ変異株による脅威は当分続く見通しだが、少なくとも食べていける国は年末か来年初めまでにウィズコロナへと転換する可能性が高い。

注目すべきことは、コロナ19の回復過程も前人未踏の領域に踏み出したのだ。コロナ19の進化と拡散に影響を受けた経済と金融は、ウイルスの変異株ほど予測不可能なブラウン運動の経路を辿る可能性が高い。経済と金融市場で働く人々は、このような不確実性を大変恐れ、嫌悪する。昨年、コロナ19とその変異株を防ぐワクチンと治療薬の空白でお手上げだった公衆保健業界のように、コロナ19が派生する不確実性が彼らを武装解除できるからだ。

しかし、最近のインフレーションをめぐる論争は、不確実性がすでに近づいているシグナルと言える。米国をはじめ世界経済はこの10年間、物価安の中で生きてきた。しかも昨年始まったコロナ禍で経済ショックとともにマイナス物価を記録した。しかし、今年は米消費者物価指数が4月から5%を超え、米連邦準備制度理事会(FRB)が通貨(金融)政策、特に政策金利の調整に反映する個人消費支出物価も8月には4%を越えた。米ドルは、世界の為替取引量の85%、外貨準備高の61%の割合を占めているだけでなく、米国の株式市場はモルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)基準で世界株式資産の58.6%の割合を占めている。すなわち、基軸通貨であるドルの物価指標の変化は世界経済へと拡大したため、インフレがどれだけ激しく襲うかを巡って激しい議論を繰り広げている。

一方、1年以上続いたコロナ禍で、2021年にはインフレという副作用が相次いだ。コロナ19から世界経済が抜け出すにつれ、需要は徐々に回復しているものの、これに対して経済封鎖と活動抑制に伴う原材料や中間財などの供給障害、人材の現場復帰の遅延、そしてグローバル物流などの供給体の毀損がグローバル供給原価を圧迫している。特に深刻なのは原油価格の上昇だ。先物基準のブレント油は昨年の底から最近まで400%以上急騰し、2020年4月に37$を記録したWTIも80$を超えた。まるで70年代のスタグフレーションを起こし、世界経済を驚かせた中東でのオイルショックを連想させる。最近の原油価格の上昇は、炭素中立イシューとも絡み合い、相当時間持続する可能性があるだけにかなり深刻だ。もしかしたら、全ての物価が一度に悪化すれば、メガトン級の巨大危機をもたらすスタグフレーションになるかも知れない。

1970年代、中東諸国の石油危機がもたらしたスタグフレーションにより、米国の物価は15%まで上昇し、経済は低迷した。当時、米連邦準備理事会(FRB)議長を務めたポール・ボルカー氏が20%まで厳しい金利引き上げに踏み切り、インフレの勢いを削いだ。この時からインフレーションの動揺を防ぐワクチンであり、治療薬は通貨量の調節と高金利による通貨緊縮政策だった。この政策の背景には、インフレや失業率のトレードオフ(trade-off)を示すフィリップス曲線がある。これは1950年代の英国、1960年代の米国経済に対する臨床試験の結果であった。フィリップス曲線を一言で説明すると、インフレを落ち着かせるためには雇用を犠牲にしなければならず、雇用を蘇らせるためにはインフレを甘受しなければならないということだ。その後、フィリップス曲線は経済や金融市場を扱う中央銀行の剣であり、盾の役割を果たした。しかし、2000年以後、経済状況は変質した。長期的な低成長による物価安が続く中、フィリップス曲線が平坦化する現象が発生した。セントルイス連邦準備銀行の資料は、2000年から2019年にかけて失業率は大幅に変動したものの、物価は低い水準を維持し、フィリップス曲線が平坦化したことを示している。この新しい経済臨床試験の結果の意味は、中央銀行が高金利や通貨緊縮をワクチンや治療薬として使う根拠がなくなったということだ。しかし、幸いなことに2019年まで低成長や物価安の状況が続き、インフレワクチンと治療薬の無力化は水面下にあった。

このような微妙な状況で注目すべきことは、当然ドルを発行する米FRBの行動だ。筆者から見れば、コロナ19が派生するインフレについて、米FRBは従来の金融政策の常識を破る処方をしている。最近の物価上昇は、昨年のコロナ19の経済ショックで急落した物価水準のために発生する錯視、すなわち基底効果とグローバル産業供給のボトルネックから発生する一時的な現象であるということだ。このため米FRBは政策金利を2023年まで低金利を維持し、資産買い入れペース縮小(テーパリング)は年末ごろの物価と経済データを見て「検討」するという。このような主張は、9月の金融政策会議やジャクソンホール会議、上院聴聞会で一貫して堅持している。なぜ資産バブルやインフレへの懸念にも関わらず、米FRBは超低金利にこだわるのか。

米FRBの法的政策目標は韓国銀行とは異なり、物価安定(price stability)と共に雇用の最大化(maximum employment)を明記している。米FRBはフィリップス曲線の関係崩壊を利用し、むしろ二つの目標を同時達成するための挑戦や実験を開始した。まず、長年維持してきた2%物価管理目標を、2020年には平均的に物価を2%に維持すれば通貨緊縮はしないという平均物価目標管理(FAIT)に果敢に見直した。こうした思い切った政策変更の背景には米国はもちろん、先進国経済に慢性病となっている低成長や、低金利の原因がまさに経済的不平等の深化だという自覚があった。特にコロナ19がこれら低所得庶民層に深刻なショックを与えたため、これらの生活を回復させるためには十分に経済的な支援の温気が伝わるまで緩和的金融政策を維持するしかないということだ。

このように米FRBの金融政策関連報告書は、低所得層の経済支援のため中央銀行が責務を果たすという内容を常に盛り込んでいた。しかし、韓国の国内では株式市場の見通しについて専門家やマスコミが主に米FRBの金融政策を解説したためか、米FRBの低所得層の雇用解消への努力はほとんど知られていない マクロ経済の変数として雇用に対する責任が与えられていない韓国政府や韓国銀行とは違って、米国連邦準備制度理事会の経済専門家が官僚や技術者ではなく医師や救急隊として頼りがいがあるのは、筆者の偏見だけではないだろう。

多くの報告書が先進国入りした韓国経済も、米国の経済のように低成長や物価安、そして不平等が観察されていると指摘する。インフレはもとより、低成長へのワクチンや治療薬としてマクロ経済政策に雇用の最大化の目標導入を韓国経済も慎重に考えてみなければならない時期だ。
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