[オ・ジョングンのコラム] フィッチの警告、無視できない理由

  • 執筆=韓国金融ICT融合学会のオ・ジョングン会長

[執筆=韓国金融ICT融合学会のオ・ジョングン会長(写真=亜洲経済)]


文在寅(ムン・ジェイン)大統領は先月25日、国家財政戦略会議で経済が戦時状況でなり、財政を総動員しなければならないと主張した。また、GDP対比国家債務比率が40%を超えてもOECD平均より低いと評価し、前例になく膨張している財政支出による財政健全性の悪化への懸念に一線を画した。しかし、文大統領は韓国の国家債務比率が先進国で使っている国家負債比率と包括範囲が異なるという点を看過している。

韓国で使用している国家債務(government liability)は、韓国の「国家財政法」によって国家が直接的に償還義務を負う狭い意味の債務だけを含んでいる。一方、国家負債(governmentdebt)は、国際通貨基金(IMF)の「財政統計マニュアル」で勧告している広い意味の国家負債で、国家債務には国家保証債務、公共機関の負債のうち国家機能の遂行過程で発生した負債、公務員・軍人年金の長期充当負債、中央銀行負債が含まれている。ほとんどのOECD諸国はこの基準に従っている。なので、両指標を単純比較して韓国の財政事情に問題がないという主張は言語道断である。

今年、韓国は支出が前例のないスーパー予算512兆ウォンに加え、補正予算もすでに3回も編成して59兆ウォンに達している反面、税収は景気低迷で少なく徴収され、今年の管理財政収支の赤字は112兆ウォンの史上最大の赤字を記録するものと予想されている。GDPに対する管理財政収支の赤字比率も-5.8%に達し、過去最大を記録しているが、これはユーロ圏の加盟国になるために守るべき収斂条件であり、危険水位と見なされている-3%の2倍近く拡大している。 OECD平均は-0.3%だ。

財政収支が悪化すれば、対外取引の面で経常収支が悪化する。これを「双子の赤字」という。 米国のように基軸通貨国の場合には財政赤字で経常赤字が出ても基軸通貨を発行して充当すればよい。しかし、韓国のような非基軸通貨国は財政赤字が経常赤字へとつながる状況が深刻化すればウォン高が進み、為替差損を懸念した外国人投資資金が流出し、外貨流動性が足りなくて通貨危機に見舞われかねない。最近、韓国の財政赤字が急速に拡大しながら経常収支が悪化していることには留意しなければならない。

財政赤字を埋めるために国債を多く発行する場合には、国債価格が下落し、国債収益率は上がり、これによって元利金の返済負担も増加する。国債収益率の上昇は、市中金利を引き上げ、企業投資を萎縮させ、企業負債の元利金返済の負担も加重だれる。何かと経済に負担を与えることになる。このような背景から最近、国際格付け会社フィッチは韓国の財政健全性が悪化すれば、国の格付けを引き下げかねないと警告した。国際格付け会社による格下げ警告には注意しなければならない。1997年、通貨危機の前に国際格付け会社の相次ぐ格下げがあった。

韓国の国家債務は第3次補正予算まで含めると、史上最大規模の840兆ウォンに上り、GDP対比国家債務比率は今年末43.5%と見込まれている。これまでマジノ線とされてきた40%台を上回る水準だ。2016年末に627兆ウォンだったことを勘案すると、文在寅政府に入って213兆ウォンという爆発的な増加を記録している。広い意味での国家負債は、筆者の推定では2014年にすでに100%を超え、今年末には123%に達すると予想されている。ユーロ圏の収斂条件である60%を超えたのはもちろん、米国で危険水位と見なして「予算統制法」で統制している100%を大きく上回っている危険水準だ。米国は2011年、国家負債比率が100%を超えると、追加的な財政支出は上下両院の同意を得なければならないようにした予算統制法を制定し、厳しく統制している。OECD平均国家負債比率は83%で、韓国はOECD平均より40%も高い水準だ。

国家負債が多すぎると、財政政策の余地がなくなり、景気が厳しくなっても対策がなく、長期低迷を招くことになる。そのため、財政を危機の防波堤という。深刻な場合、税収で利息返済も難しく、新規国債の発行や借換発行が難しくなる「債務の落とし穴(debt trap)」に陥り、国家不渡り(sovereign debt crisis)の危険が大きくなる。2011年、南欧財政危機の経験から、国債利息負担がGDPの10~15%水準に達すると債務の落とし穴に陥りかねない。韓国はすなわち、この水準に迫っている。

コロナ危機で経済が悪化し、大量企業の倒産と大量失業の危険が続いている。財政の役割が重要な時期であることは言うまでもない。しかし、危機のトンネルを過ぎた後、直ちに財政危機に見舞われることになれば、さらに大きな問題になる。2011年に深刻な財政危機を経験した南欧の場合、2008~2009年の世界金融危機以前のGDPに対する国家負債比率がアイルランドは20%、スペインは40%、ポルトガルは60%の水準だった。ギリシャ、イタリアだけが100%水準だった。しかし、世界金融危機を経験しながら国家負債比率が急増した。2010年にギリシャ140%、イタリア120%、ポルトガル・アイルランド90%、スペインは60%水準まで急騰した。GDPに対する財政赤字割合も2006~2007年にはギリシャだけが-5%を超えていただけで、他の国々はほとんど-3%未満だった。しかし、2008~2009年の世界金融危機で財政赤字の比率が急激に悪化し、2010年にはすべて-7~-10%に悪化し、アイルランドは-30%を上回る水準に急激に悪化した。ついに南欧諸国は2011年に一斉に財政危機に陥った 。

日本の場合、1980年後半の金融危機克服過程で国家負債が大きく増加した。国家負債/GDP比率が1990~1991年には60%台に過ぎなかったが、1993年に左派政権 が発足した後、財政支出を急速に拡大し、国家負債比率は急増し始めた。1997年に初めて100%を記録した後、2008年の世界金融危機を経て2009年に200%を上回り、2018年には238%を記録しながらOECD加盟国の中で最も負債比率が高い国となった。日本は景気低迷にもかかわらず、財政政策が打ち出せなくなり、1992~2011年の20年間、平均0.6%の低成長を続ける「失われた20年」を記録した。南欧と日本の経験は、「危機であるからといって財政を注ぎ込むと、財政危機に見舞われる」という厳重な教訓を与えている。必ず必要な部分に財政を使い、危機のトンネルを通過する知恵が必要な時期だ。
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