去る5月7日、日本軍『元慰安婦』被害者の李容洙(イ・ヨンス、91)氏の記者会見は衝撃そのものだった。自分を含む被害者たちが韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)に利用されたと批判し、日本大使館前で毎週続けてきた水曜集会にもこれ以上参加しないと明らかにした。李容洙ハルモニ(おばあさん)は挺対協の独善的な運営と不透明な会計処理も問題視したが、挺対協が吸収・統合して作られた正義記憶連帯(正義研)と尹美香(ユン・ミヒャン)前常任代表の釈明は疑惑解消どころか、政治的攻防だけを招いた。
「慰安婦被害者が歴史の被害者から主体として堂々と立ち上がるまで、彼らの重要なパートナー」(『韓国挺身隊問題対策協議会20年史』、215ページ)として挺対協が大きな役割をしたが、いつのまにか挺対協式の問題解決方式が聖域化して、これとは異なる見解が韓国社会に定着しにくくなったというのも否定し難い。
寄付金の横領や不正使用などの疑惑に関しては検察の捜査に任せることにして、ここでは今回再び注目を受けるようになった2015年12月28日の韓日慰安婦の合意と挺対協に関していくつか確かめておきたい。
筆者は2015年の最後の日、ある新聞に合意がきちんと履行されれば韓日協力の新しいモデルになれるという趣旨のコラムを書いたことがある。日本政府が法的責任を認めず、安倍首相の謝罪と反省表明も間接的だったという限界があるが、被害者支援のために韓国政府が設立する財団に日本政府の予算を提供し「すべての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復および心の傷の治癒に向けた事業」を行うことで合意したことに注目したからだ。
しかし、その後展開された状況をみると、両国政府の状況認識は安易であり、合意の誠実な履行にも怠慢だった。被害者の名誉と尊厳の回復、傷の治癒に向けた具体的事業を両国が協力して着実に実施することを前提とした合意が、慰安婦問題の『最終的かつ不可逆的解決』になることを確認しただけなのに、日本内では10億円の拠出で日本の責務は終わるように報道された。日本では合意の核心的な内容よりは少女像(慰安婦像)の移転に向けた努力や国際社会での非難自制、日本軍性奴隷呼称のような副次的な問題が大きくクローズアップされた。
この合意に基づいて和解治癒財団が設立され、生存被害者と遺族に現金を支給する事業を始めたが、この金は日本軍の関与と責任を認め、謝罪の証として日本政府の予算で被害者に提供されたことは否定できないだろう。
しかし、岸田文夫外相は合意当日の日本記者との会見で、10億円は賠償ではないとして、請求権問題は1965年の韓日請求権協定で解決されたとの従来の主張を繰り返した。安倍首相は、被害者に直接謝罪の意思を伝えるべきだという声を無視し、自分の口で直接謝罪する考えは全くないと述べ、韓国国民の感情を刺激し、怒りを買った。このような態度は、日本が合意履行を韓国に要求する際に使った『合意精神』に明らかに反するものだ。
合意に反する言動が続けば、合意破棄も辞さないという強い抗議が必要だったが、韓国政府は傍観で一貫した。日本軍『慰安婦』問題と関連して「被害者たちが受け入れられ、韓国国民が納得できる」措置を取らない限り、首脳会談をしないと強硬な姿勢を見せていた朴槿恵(パク・クンヘ)大統領は、就任後一度も被害者たちに直接会ったりもしなかった。
12・28合意そのものより、これをどのように具体的に実現していくかが何より重要だったが、韓日両国政府や指導者が誠意を尽くして実行しようとしたとは言えない。特に、日本軍『慰安婦』問題が民間業者によるものだとすると、国家と軍の関与を否定した日本政府は、新しい資料の発掘と関連研究が進展を見せて関与事実を認めるようになったが、このような認識が日本の国民に広く浸透しているとは言えない。
日本軍『慰安婦』が本人の意思に反した苛酷な人権侵害だったというのが国際社会の共通の認識だが、韓国社会に「20万人の少女が連行され、238人だけが帰ってきた」(映画『帰郷』の予告編)は一種の神話が存在する。事実に合致しない主張が日本の反発を招き、それが再び韓国側の批判を招く悪循環の輪が両国関係を難しくさせてきた。
法的責任と賠償を主張した挺対協が、賠償金でない金を受け取ってはならないと被害者らを直接説得したかどうかは分からないが、12・28合意に基づいて生存被害者の約70%が1億ウォンの現金を受け取った。
1990年代半ば、半官半民という性格のアジア女性基金から61人の被害者が『道義的』責任を認めて謝罪する日本首相の手紙とともに500万円ずつ受け取った。日本国民から集めた財源から200万円の償い金と日本政府の予算から300万円の医療福祉費を受け取ったが、当時、挺対協はアジア女性基金は責任を回避しようとする日本政府の術策であり、この金を受け取れば自ら売春婦であることを認めるものだとし、反対していた。アジア女性基金側は、韓国政府が支給する金とこの基金の資金をともに受け取るよう要請したが、挺対協の強力な反対で韓国政府はこれを受け入れなかった。
挺対協や尹美香(ユン・ミヒャン)前常任代表に対する批判を親日勢力の不当な攻勢とみなしてはならず、これまで蓄積してきた挺対協と尹美香前常任代表の役割をこき下ろしてはいけない。李容洙ハルモニは、暗い小部屋に閉じ込められていた慰安婦問題を公論の場に出るようにした挺対協の功過に対する評価を基に、今後どのように韓日間の歴史問題を扱わなければならないか、重大な課題を私たちに投げかけた。
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