シャープが20日、電子書籍事業に本格参入すると発表した。年内にタブレット型の電子書籍用端末を発売し、新聞社や出版社、通信事業者に幅広く連携を呼び掛け、電子書籍の編集支援や配信サービスを始める。先行する米アップルのマルチメディア端末「iPad(アイパッド)」の追撃を狙う。
◆シャープ、電子書籍本格参入
シャープは20日開かれた発表会で「“川上”から“川下”まで、関連企業と強く連携し、新しい電子書籍を実現していく」と強調した。電子書籍事業で“川下”にあたる端末メーカーのシャープは、“川上”にあたるソフトの提供を受けるため、新聞社や出版社などと交渉を進めている。
すでに複数の新聞社(日本経済新聞、毎日新聞、西日本新聞)や出版社(東洋経済新報社、ダイヤモンド社など)がソフトの提供を内諾。
シャープは書籍を電子化する編集作業から、ソフトの配信まで総合的にかかわる。念頭にあるビジネスモデルは、ソフトの確保から配信、課金まで一貫して手がけるアップルやアマゾンのような米国企業だ。
この日にシャープが公開した端末の試作機は、画面サイズが5・5インチと10・8インチのタブレット型。アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」やiPadを意識したサイズだ。
シャープが各社に協力を呼び掛ける際のカギとなるのが、電子書籍フォーマット(規格)だ。日本語特有の縦書きやルビに対応し、動画や音声にも対応した「次世代XMDF」と呼ばれる規格をシャープが開発。この規格を利用すれば、印刷用に作成したデータを電子化するのが容易になり、新聞や雑誌などとの同時配信が可能になる。
さまざまな画面サイズで最適なレイアウトになるよう自動変換する仕組みも備えており、スマートフォンからテレビまで、多様な端末で電子書籍が楽しめるという。
シャープは「電子書籍の発展には、魅力的なソフトを手間なく、素早く電子化できることが必要だ」と強調する。
◆ソニー東芝など端末続々
米国で電子書籍端末「リーダー」を販売するソニーは、国内で年内に端末を発売する予定を明らかにしている。
ソニーも他メーカーに事業会社への参画を要請し、「様々な端末に作品を提供できる電子書籍の流通基盤を作る」(米ソニーエレクトロニクスの野口不二夫上級副社長)考えだ。
東芝が8月下旬に発売を予定する「リブレットW100」は、7型の液晶画面を2つ搭載する見開き型の小型端末。縦方向に持てば、本を読むように使える。基本ソフト(OS)に米マイクロソフト「ウィンドウズ7(セブン)」専用を搭載し、パソコンとしても利用できる汎用端末だ。
スレート型端末ではNECが10月、OSに米グーグル「アンドロイド」を搭載した企業向け端末を発売するほか、東芝やソニー、富士通も参入を検討している。
◆グーグル、日本で電子書籍サービス 年明けに開始
インターネット検索最大手、米グーグルの日本法人は、有料の電子書籍サービス「グーグル・エディション」を年明けに日本で始めると発表した。パソコンやスマートフォンなど様々な機器から利用できるようにし、「特定企業に依存しないサービスの展開を目指す」(同社)としている。
グーグルは現在、協力先である世界3万以上の出版社が登録した書籍200万冊以上の内容の一部をネット利用者が検索して閲覧できる「グーグル・ブックス」を展開中。これまでは書籍の内容の2割を無償公開してきた。新サービスでは出版社の同意を受けた書籍を1冊丸ごと有料配信する。価格決定権は出版社側にあり「売り上げの5割以上を出版社に分配する」(同)としている。
◆サービス競争が加速、メーカー間の連携課題
すでに講談社や小学館、主婦の友社など出版大手は、iPad向けに一部新刊書の提供を始め、書籍や雑誌、マンガの品ぞろえが拡充してきている。各社は今後出てくる他の端末向けにも対応作品を広げていく考え。出版社が複数の端末向けに電子書籍を提供しやすいように、大日本印刷や紀伊国屋書店などが、対応した販売サイトや支援サービスを近く始める方針だ。
また、ソニー株式会社、凸版印刷株式会社、KDDI株式会社、株式会社朝日新聞社の4社は、電子書籍配信事業に関する事業企画会社を今月1日に共同で設立した。
企画会社の名称は「電子書籍配信事業準備株式会社」で、資本金および資本準備金は合計3000万円。ソニー、凸版印刷、KDDI、朝日新聞社の4社がそれぞれ25%ずつ出資する。
企画会社は10月をめどに、書籍・コミック・雑誌・新聞などを対象とした、デジタルコンテンツの共通配信プラットフォームを構築・運営する事業会社への移行を予定。2010年内の配信サービス開始を目指す。
4社は5月27日に事業構想を発表し、事業会社では他社にも門戸を開いたオープンな電子書籍配信プラットフォームを構築していくとしている。
◆通信3社も動く
NTTドコモは、2011年3月までに電子書籍事業に本格参入する意向を明らかにした。携帯電話やスマートフォンなどに向け、小説や漫画、雑誌、新聞などのコンテンツ(情報の内容)を配信する。
電子書籍をめぐっては、ソフトバンクが日本国内で独占販売するiPadなどに向けたコンテンツ配信サービス会社を設立。KDDIも、ソニーなどと組んで配信に向けた準備会社を今月立ち上げ、年内のサービス開始を目指している。携帯最大手のドコモの参入で、電子書籍のコンテンツ配信で3社が激突することになった。
ドコモは、すでに出版社や印刷会社、端末メーカーなどと事業参入に向けた話し合いを進めており、新会社の設立も視野に入れている。また、ドコモは今年の冬モデルでスマートフォン7機種を投入する予定だが、電子書籍が読みやすいタブレッド型の端末も売り出す予定。
通信業界では、ソフトバンク傘下のビューン(東京都港区)が6月、iPadや同社の携帯電話に向けて新聞や雑誌などのコンテンツ配信サービスを開始。しかし、予想を大幅に上回るアクセスが集中したためサービスを一時停止し、今月6日に一部で再開した。
◆電子書籍の市場規模は26年度には1300億円
2009年度の日本国内の電子書籍市場規模は、前年比23・7%増の574億円になった。出版不況といわれる中、順調に成長している状況が改めて裏付けられた。
今年はアップルの新型情報端末iPadが発売され、今後も電子書籍が読める端末の登場が予定されていることから、26年度には1300億円規模に拡大すると予測されている。
市場規模を調査している「インプレスR&D」(東京)によると、全体の市場規模は14年度がわずか10億円。以降5年間は前年比2倍増のペースで伸びてきた。市場を牽引(けんいん)したのはコミックを中心としたケータイ向け電子書籍。21年度の市場規模は513億円で全体の89%を占めた。ケータイ向けが好調な要因について、同社の担当者は「コンテンツの充実や販売サイトの増加、一部無料などによる新規ユーザーの獲得などが考えられる」と分析している。