[オム・テユンのコラム]北朝鮮に対する幻想を捨てるべき

[写真・執筆=漢陽大学国際大学院のオム・テユン グローバルインテリジェンス学科特任教授]


北朝鮮は今年6月4日、北朝鮮へのビラ散布に対する非難をはじめ、南北関係を敵対関係と規定して以来、これまで青瓦台(大統領府)に対してあらゆる暴言と脅迫を浴びせた。それに「ソウル火の海」まで再び取り上げるなど、韓半島を緊張局面に追い込んでいる。ついに北朝鮮は6月16日、開城(ケソン)工業団地にある南北和解の象徴といえる南北共同連絡事務所を爆破し、この3年間の南北関係を壊してしまった。6月17日、北朝鮮軍総参謀部は金剛山観光地区、開城工業団地、非武装地帯GPに軍部隊を再駐留させるという軍事分野の指針を公開した。

北朝鮮の脅迫が南北共同連絡事務所の爆破という実際の行動で現れ、今後の北朝鮮の武力挑発に対する憂慮が増幅している。統一部長官は南北関係の悪化に対する責任を負って辞任し、青瓦台はともかく、統一部や軍でも北朝鮮に対して強硬発言をしている。南北関係の雰囲気が平昌(ピョンチャン)冬季五輪以前の状況に戻りつつある。

北朝鮮は対北朝鮮ビラ散布を問題視して文在寅(ムン・ジェイン)政府を脅迫し、手懐けようとしており、大統領選挙に没頭しているトランプ米大統領と新型コロナウイルスのショックに陥っている周辺諸国の注目をもう一度引き寄せるため、韓国政府の財産である南北共同連絡事務所爆破という高強度のショック療法を使用した。

今回の事態発生の背景をよくみると、北朝鮮はこれまで3回の南北首脳会談と2回の米朝首脳会談を行ったが、UN(国連)の対北朝鮮制裁は解除できなかった。その上、最近新型コロナ事態で中朝国境が封鎖され経済難がさらに深刻になると、北朝鮮内部の不満をなだめるために対南強硬姿勢に転じたのだ。北朝鮮は韓国に腹いせをし、米国に不満を伝えようとしている。

トランプ大統領は米国に対する北韓の挑発中断をこの3年間の外交的成果として掲げており、北朝鮮が大統領選挙期間中にICBM発射などの挑発行為をしないよう、管理する立場として米朝関係を維持している。しかし、北朝鮮は米国の消極的な態度に不満を持っており、国連の対北朝鮮制裁を解除してほしいと米国に強く抗議しているのだ。

北朝鮮の南北共同連絡事務所の爆破によって再び浮上した韓半島の緊張状況について問題点を診断してみよう。

第一に、この3年間、北朝鮮の非核化は実現しなかった。北朝鮮は表向きは非核化を推進するかのような行動を見せていたが、実際は核弾頭の保有個数を増加させてきたと疑われている。 北朝鮮の目的は、核保有国として地位を確保することだ。文政府とトランプ政府の対北朝鮮政策は失敗しており、北朝鮮に時間だけ稼がせた結果を招いた。北朝鮮の非核化に対する政府の仲裁者の役割が失われ、北朝鮮に対する漠然とした期待感を持って推進してきた対北融和政策もこれ以上説得力がなくなった。もはや政府は北朝鮮に対する幻想を捨て、現実を直視しなければならない。

第二に、北朝鮮が露骨に脅迫している状況の中、もしも今後、政府が屈服して金剛山観光など南北協力事業を推進する場合、むしろ事態が一層悪化する可能性がある。政府が米国との共感を得ずに独自で南北協力事業を推進するならば、国連の対北制裁で韓米間の葛藤が生じるだろう。そして、北朝鮮にさらに振り回される事態が発生するだろう。

第三に、南北共同連絡事務所は韓国国民の税金が投入された財産だ。北朝鮮の爆破行為は非常に挑発的であり、明白な財産権侵害であるだけに強力に対応しなければならない。一方、今後、西海NLL、DMZなどで予期せぬ北朝鮮の軍事的挑発が起こりかねず、米国を狙ったSLBM、ICBM発射も予想されのが心配だ。

今後、政府がどのように対応するのがよいかを考えてみよう。

政府は、これまで推進してきた対北朝鮮政策の失敗を認め、対北朝鮮政策の基調を変えなければならない。北朝鮮が軍事的挑発を強行する場合、強力に報復するという確固たる立場を示し、北朝鮮の追加挑発に備えて、地上、海上、空中で国民の安全と財産の保護するのに徹底した準備をしなければならない。金剛山観光や開城工業団地の再開など、南北協力事業への未練を捨て、北朝鮮の非核化に焦点を合わせた対北朝鮮政策を冷静に練り直さなければならない。

高まる韓半島の危機状況を克服するために、米国との同盟関係をさらに強化するのに努力しなければならない。最近、政府が米中間の葛藤、防衛費分担金交渉、対北政策などをめぐって米国と足並みがそろっていない。特に、対北朝鮮政策と関連し、政府が南北経済協力を通じて南北関係を改善した後、米朝関係を牽引するという立場を堅持してきたのに対し、米政府は「南北協力は必ず非核化の進展と歩調を合わせなければならない」と主張してきた。

北朝鮮が南北関係を敵対関係に追い込んでいるだけに、政府は対北朝鮮政策と関連して米国と 声を揃えることが必要だ。従来の北朝鮮融和政策の代わりに、国連の北朝鮮制裁をテコにし、北朝鮮の非核化を誘導しなければならない。政府は国際社会とともに北朝鮮に対して「北朝鮮の非核化推進だけが国連の対北朝鮮制裁を解除する道だ」という明確なメッセージを伝えなければならない。特に韓・米・日安保協力体制の構築を通じて北朝鮮の武力挑発を事前に封鎖しなければならない。

米国が大統領選挙をわずか4ヵ月あまり残しており、トランプ大統領はもとより、米政界では大統領選挙に全ての関心が集まっている。今、米国が北朝鮮の非核化問題を解決するには時間的な余裕がない。11月3日に米大統領選挙が終わり、来年1月に新たな政権が発足してから北朝鮮の非核化問題を綿密に検討することができるだろう。最近、米大統領選挙の世論調査でトランプ大統領はバイデン民主党候補に後れを取っている。もし、バイデン候補が大統領選挙で勝利する場合、次期政府の対北朝鮮政策の方向はトランプ政権とは相当変わるだろう。

政府が早急に取り組むべきことは、韓半島で北朝鮮の軍事的挑発が発生しないよう、全軍の防衛態勢をさらに強化する一方、米国との協力体制を強化し、もしも北朝鮮の挑発が発生した場合、韓米合同で強力に軍事的報復ができる万全の態勢を整えることだ。また、韓国国民も今回の事態を機に北朝鮮の実状に気付き、安保意識を確固たるものにしなければならない。
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