[オム・テユンのコラム]南北関係の改善よりも国民の命が最優先だ

[写真・執筆=漢陽(ハンヤン)大学国際学大学院グローバルインテリジェンス学科のオム・テユン特任教授]


去る9月22日、北朝鮮が西海(ソヘ)の小延坪島(ソヨンピョンド)海上で行方不明になった海洋水産部所属の公務員を射殺し、遺体を燃やす蛮行を犯した事件が発生した。北朝鮮の蛮行を聞いた韓国国民は大きな衝撃を受けた。大韓民国の民間人に行った北朝鮮の恐ろしい行動に、韓国国民はもとより世界のメディアも驚きを禁じえない。2008年7月、金剛山(クムガンサン)観光に行ったとき、北朝鮮軍の哨兵の銃撃を受けて死亡したパク・ワンジャ氏の事件が再び頭に浮かぶ。その事件により南北関係が硬直し、結局、金剛山観光が中断された。当時、北朝鮮は真相究明、再発防止、観光客の身の安全の保障など、政府の3大要求事項を受け入れなかった。2010年11月にも北朝鮮が延坪島に向けて砲撃を加え、民間人2人が死亡した。

金剛山銃撃事件と延坪島砲撃事件が発生して10年以上の歳月が経ったが、韓国国民はその当時のことを忘れることができない。にもかかわらず、再び非武装状態の大韓民国国民が北朝鮮軍によって射殺されたという悲報を受けた。北朝鮮軍が上部の指示によって韓国国民を射殺したということは、どれだけ深刻なのかが分かる。わずか100日前の6月16日にも、北朝鮮は南北交流協力の象徴である開城工団で、大韓民国の資産である南北連絡事務所の建物を爆破し、韓国国民はそれをただ見守るしかなかった。政府は、北朝鮮に対して損害賠償請求など責任を追及せず、消極的な姿勢で一貫している。

文在寅(ムン・ジェイン)政府は2007年の発足以来、三度の南北首脳会談と二度の米朝首脳会談を開催しており、これを韓半島平和定着に向けた外交的成果として打ち出した。最近、膠着状態にある南北関係を突破するために、去る9月23日未明、文在寅大統領が第75次UN総会の基調演説の映像で「韓半島で戦争は完全かつ永久的に終わらせなければならない」として、『韓半島の終戦宣言』の必要性を強調した。政府の南北関係改善の意志にもかかわらず、北朝鮮が大韓民国の民間人を射殺した惨憺たる事態が発生したということで、驚きを禁じえない。これまでの政府の努力が十分に働いていたなら、このような事態が発生しなかっただろう。実に残念なことだ。

今回の事態と関連して、政府の対応が消極的だったと非難する世論が高まっている。政府が大韓民国の国民の生命を守るために、北朝鮮に積極的な姿勢を示していたなら、最悪の事態を阻止しただろう。9月25日午後、青瓦台(大統領府)は文在寅大統領と金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の親書の内容まで公開しながら、水面下での北朝鮮との関係が引き続き行われていることを見せてくれた。政府が行き詰まっている米朝非核化交渉の突破口を開くために、南北関係の改善に最善を尽くしているようにもみえた。もし政府が南北首脳間で親書を交わしたように、韓国国民の生命を守るために南北間のホットラインチャンネルを活用して素早く動いていたなら、少なくとも民間人が射殺されることはなかっただろう。

さらに青瓦台は9月25日、北朝鮮の金正恩委員長の「申し訳ない」という内容の通知文も公開した。しかし、韓国国民にとって簡単に忘れることができないのは当然のことだ。韓国国民が大きな衝撃を受け、北朝鮮の実体を再び深く考える契機になったからだ。米国政府と国際人権団体も北朝鮮の蛮行を糾弾している。政府は同じような事態が再発しないよう、北朝鮮に強力な立場を表明しなければならず、南北関係の改善よりは国民の生命と安全をまず考える姿勢を持たなければならない。

北朝鮮は南北首脳会談と米朝首脳会談に参加したにもかかわらず、いまだに非核化の意志を示していない。国内外の韓半島専門家ですら、北朝鮮が核兵器をあきらめないだろうと予想する。 北朝鮮の非核化に向けた政府の努力は、事実上水の泡となった。文大統領が国連演説で提起した『韓半島の終戦宣言』問題を言及するには早すぎる。

現在、北朝鮮の非核化に向けた米朝交渉が中断している状態だ。南北関係はもちろん、米朝関係改善のための核心事案である北朝鮮の非核化問題が全く進展を見せていない状況であることを勘案すれば、「果たして我々が北朝鮮との終戦宣言の必要性を主張することが急がれるのか」という疑問が生じる。なぜなら、韓半島の平和のために最も必要なことが北朝鮮の非核化であるにもかかわらず、解決策を見いだせないまま、安易に終戦宣言を先にした場合、その後遺症に耐えられなくなるからだ。

現実的に北朝鮮との終戦問題を推進するには、韓米間の緊密な外交的協力関係が後押しされなければならないが、現在米国は11月3日に行われる大統領選挙を1カ月後に控えており、韓半島問題に集中する余裕がない状況だ。トランプ大統領は大統領選勝利のため、終盤の選挙遊説活動と新型コロナ事態など米国の国内問題に総力を傾けている。そのため、韓米相互間の十分な意見調整が行われるには時間が足りない。

また、米大統領選挙の状況が混戦の様相を呈している。大統領選挙の結果によって、米国の対北朝鮮政策が変わる可能性があるということを見逃してはならない。米国政府は対外政策を遂行する上で人権問題を重要視しているため、北朝鮮の今回の行動が今後の米朝関係改善にさらなる障害となる可能性もある。

しかも、北朝鮮軍が韓国国民を射殺した事件により、北朝鮮に対する国民の不信感が高まっている中、『韓半島の終戦宣言』推進と南北関係改善に向けた政府の動きは説得力に欠けるだろう。今回の事態からみて、韓国国民の大切な生命と安全を守るための政府の努力が不十分だったという気がする。「韓国政府は国民の生命と安全を確実に守ってくれる」という信頼が生まれた時、政府に対する国民の信頼も高まるのだ。政府は今回の事態を教訓に、大韓民国の資産と国民の生命を確固たるものにすることに邁進しなければならず、北朝鮮に対しても韓国の立場を断固として表明し、堂々とした姿勢で臨まなければならない。

 
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