太刀川正樹‐日刊現代記者‐亜洲経済編集委員 | ||
それは柔道の金メダルリストの谷亮子が今度の参院選挙に民主党推薦の全国比例代表候補として出馬することが発表されたからです。谷亮子といえば過去5回、夏の五輪に出場して全ての大会でメダルを獲得している日本では国民的なアイドルとして知られています。
彼女は銀メダル二度、金メダル二度、そして前回の北京五輪では銅メダルを獲得しています。彼女の旧姓は田村ですが、現在のプロ野球の読売ジャイアンツの谷選手と結婚したときに発した言葉は有名です。「私は田村で金、谷でも金、そして赤ん坊を産んでママとなっても金をとりたい」と言う言葉ですが、彼女は言ったとおり、必ずメダルを獲得してきました。
彼女の出馬はいわば韓国の英雄ともいえるフィギュアスケートの英雄でもあるキム・ヨナが韓国の国会議員選挙、いや大統領選挙に出馬するようなもので、それほど日本国民に衝撃を与えています。
支持率急落の民主党にとっては「100万、いや1000万の味方を得た」と言う小沢幹事長が記者会見で語っていますが、それだけ衝撃が強かったことは確かです。彼女が民主党支持だとは誰も知らなかったと思いますが、小沢幹事長との長きにわたる個人的な関係が決定的だったと彼女自身が記者会見で述べています。
小沢幹事長が自民党時代から谷亮子(当時は田村亮子)のファンだったということで国会の事務所にも彼女の写真が飾ってあったという報道もありました。彼女の民主党からの出馬で一番ショックを受けているのが自民党でしょう。
自民党もかつては彼女に対して出馬を要請したことがあるが、断られたとのことです。選挙の神様といわれる小沢一郎幹事長があらゆる人脈を通じて、あらゆる人々に対してアプローチしてきたことがわかろうというものです。
今度の参院選挙では谷亮子だけではなく、オリンピックの体操選手やタレント、プロ野球選手などが民主党だけでなく、自民党や「立ち上がれ日本」などの政党から出馬する予定です。今度ほどタレントやスポーツ選手など有名人が選挙にでる選挙はないといえます。
最近の世論調査によると、特定の政党を支持しないいわゆる「無党派層」は50%を超える勢いです。それぞれの政党はこの「無党派層」を狙って知名度の高いタレントやスポーツ選手を出馬させていますが、正直な話、当選確実なのは谷亮子だけでしょう。
彼女の出馬にはいろいろな意味があります。それは彼女が今年3月まで、自動車メーカーのトヨタ所属だったことです。出馬を覚悟した時点でトヨタを辞職しましたが、会社を辞めたといってもトヨタとはまだまだ深い関係があるといってよいでしょう。
おまけに民主党政権になって次期日本体育協会会長に元トヨタ自動車会長の張富士夫氏を内定しました。これまでは自民党の森喜郎元首相が就任していましたが、政権交代にともなって多くの会長職も民主党の影響をうけるようになったのです。
トヨタは5年前の総選挙では会社ぐるみで自民党を応援した経緯がありました。しかし、次の選挙(参院でも衆議院でも)は自民党支持を公言することはできない立場に追い込まれています。政権与党と仲良くしなければならないという日本の企業の宿命があるのでしょう。
日本体育協会といえば、日本のスポーツ業界を大きく影響できる組織です。されに注目すべきは日本医師協会も民主党系が会長になりましたし、今度の参院選挙でも民主党候補を支持することを言明しました。
いくらマスコミが世論調査と称して、民主党不利説を流しても水面下では組織的に民主党支持の準備が着々と進んでいるのも事実です。16日の新聞報道によると、自民党の党員も100万人を割ってしまったとのことです。民主党の支持率が低下しても、自民党の支持率が上昇しないところが問題です。
現在、今年初めに自民党から離党して新党を作った「みんなの党」が注目されていますが、この「みんなの党」が自民党の支持票を奪ってしまう可能性が大きく、自民党が従来のように華やかに復活する可能性は大きくありません。
太刀川正樹‐日刊現代記者‐亜洲経済編集委員 mike@tkk.att.ne.jp